| 「HOはどんな雑誌ですか?」とよく聞かれます。 
 広告担当部署もクライアントに説明しにくいとぼやいています。
 
 確かに、観光情報誌ではないし、生活情報誌とも言えません。
 取り上げるテーマも桜や紅葉、庭、市場、温泉、ラーメン、カフェとバラバラ。
 
 でも共通しているのは、それぞれの分野で懸命に生きている人たちを一人でも多く登場させようということなのです。
 
 武骨で不器用、でも自分のスタイルを持っている。素敵ですよね。その意味ではHOは「人間情報誌」ということなのかも知れません。
 
 (お)
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		| HOのタイトルロゴは、最初のプランではひらがなの「ほ。」でした。 
 つまり、「ほっかいどう」をフィールドにすること、「ほっ」とする話題を集め、「ほんもの」を育てるお手伝いをする。そんな願いを込めて「ほ。」としたかったのです。
 
 ところが、実際にデザインに落とし込む段階になって、デザイナーから「ほ。」ではどうにもバランスが悪い、との意見がでました。
 
 最終的にアルファベットのHOに落ち着いたのですが、ある時、印刷会社の担当者から「これって、大鹿さんのイニシャルですよね」と指摘されてハタと気がつきました。
 
 大鹿寛、HO。
 
 そうだったんだ。でも、偶然はさらに続きがありました。デザイナーの小笠原さんの会社が「HIT&RUN」。「HIT&RUN小笠原」、つまりHOだったのです。
 
 (お)
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		| HOというネーミングは取材スタッフや広告営業の現場からも不評でした。 
 「えっ?、ほっ?」
 「はい、エイチオーと書いて『ほ』と読みます」
 
 そんなやりとりの後に、本題に入ります。もし、坂田という名前のスタッフがいたら、ちょっとつらいことになっていたと思います。
 
 「ホの坂田です」
 
 ね、際どいでしょう。よく、電話で話し始める前に「ア…、」と間をおく人がいます。そうなると完璧です。坂田さんという方の応募がないことを願っています。
 
 (お)
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		| 創刊号で使った男女の裸写真は、定山渓で古くから雑貨屋を営んでいる家の古いアルバムに貼られていたものです。初めて目にした時、そのインパクトの強さに引き込まれてしまいました。 
 男性も女性も堂々として実に格好がいい。
 
 大正の時代にこんなさばけた家族がいたなんて。
 「家族のアルバムに貼ってはあったが、家族ではありません。大正か昭和の初めに定山渓の宣伝用に撮影されたのではないでしょうか」というのが持ち主の説明でした。
 
 創刊時のたたき台としてデザイン。タイトルロゴはひらがなだった
 
 「創刊号の表紙に使いたい」
 
 つきあいのあるカメラマンに見せたら「これはすごい、いいですねえ」と感心することしきり。「そうでしょう、ね、ね」。
 
 気をよくして表紙見本を取り次ぎの人に見てもらったら、「アダルトコーナーに置かれちゃうかも」。そ、そんな。
 
 何軒もの書店を持っている社長さんは、「これは、きついなあ。女性は地下鉄の中で持って歩けないよね」だって。
 さんざんでした。
 
 でも、中途半端な創刊号にはしたくないとの思いは強く、迷いながらもあえて踏み切りました。
 
 結果は……。
 
 さすが、書店の皆様方の判断は正しかったのです(感心していてはいけないのですが)。
 
 宣伝もしていないのだから仕方がないよ、との慰めもいただきましたが、納得のいく結果とはなりませんでした。
 
 でも、迷いながらやっていた2号目の取材の時、取材拒否で有名なススキノの飲食店から「この本なら出ます」と言っていただいた時は本当にうれしかったです。
 
 創刊号を見せると「ああ、この本、書店で見ました」との言葉を何度聞かされたことでしょうか。
 
 買わないまでも「記憶に残る雑誌」であったことだけは確かなようです。
 
 (お)
 
 創刊号。表紙は温泉気分丸出しですが、メーンの記事は「漁師の宿&農家レストラン」
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		| 「然別峡のかんの温泉に行くんなら、近くのオソウシ温泉の写真も撮ってきてください」。コンビニで弁当を買ってきて、みたいな気軽な依頼に深く考えもせずに了解したカメラマンの吉田君。 おかげで、こちらはずいぶんと肝を冷やしました。
 
 オソウシ温泉は、新得町の市街を抜けてから東大雪湖の方に向かう道路を右に折れ、原始林を切り開いた狭い砂利道を20kmも走る。なにせ出せるスピードはせいぜい時速30km。
 
 いつシカが飛び出すか、クマが出てくるか?
 
 そんな思いに駆られながら突き進むと、山あいに忽然と現れるのが鹿乃湯荘なのです。ひっそりとという言葉がこれほど似合う宿はありません。実に鄙び感たっぷりの温泉なのです。
 
 玄関前に車を止めると、早速ネコのニケちゃんがお出迎えしてくれました。
 秘湯にふさわしく、露天風呂の横でコンクリート管からドボドボと源泉があふれています。休憩室の薪ストーブに手をかざしながらしばし宿のご夫婦と談笑。なんでも、大病をした奥さんがこの温泉で湯治をしたことがきっかけで、ついには夫婦で経営するはめになったのだそうな。
 
 「がんを宣告された人が何人もここで湯治して治っているのよ」と奥さん。
 
 自分の病気も温泉でなおした人だけに、言うことに説得力があるのです。
 
 車のボンネットで暖まるネコのニケちゃん。温泉があるんだから、車より足湯でしょ
 
 来る途中にあった、かんの温泉の小さな道路標識が気になって聞いてみた。
 
 「多分、明日ぐらいには通行止めになると思うが、今日は大丈夫でしょう。この道を行った方が、20キロぐらい近道だよ」とご主人。
 「本当に大丈夫ですか?」
 「ああ、昔の人はかんの温泉とうちを行ったり来たりしたもんさ」
 
 オソウシ温泉の経営者夫婦。薪ストーブの風情が癒されます
 
 牧場犬のモモちゃんはグーッと伸び。だって、犬なのに猫背になったら格好悪いもんね
 
 地元の人が言うんだから間違いない。
 最初のうちこそ
 
 「いやあ、こんな道路久しぶりだなあ、絶好のオフロードだね」
 
 などと面白がっていたが、次第に足がこわばり、手に汗がにじんでくる。
 
 標高が徐々に高くなるに連れ、道幅が狭くなり雪もちらついてきた。しかも砂利道なのにガードレールもない。助手席から窓の下をのぞいて思わず体が突っ張りました。
 だって、思いっきり崖なんだもの。
 
 「おい、吉田君、ゆっくり行け!滑ったら終わりだぞ」。
 
 「温泉で、ごろん」の取材に来て、「谷底に、ごろん」ではしゃれにならない。
 どうせ落ちるのなら、せめて若い女の子と手をつなぎながら落ちたいじゃない。
 
 もちろん携帯電話は通じない。こんな車も通らないようなところでパンクでもしたらお手上げ、と思っていたら、目の前に車。時速20kmぐらいののろのろ運転で何か怪しい。すれ違うと目付きの鋭い男が4人、窮屈そうに乗っているではありませんか。
 
 「温泉の帰りかと思ったけど、違うな。あの雰囲気は。こんな山の中で何かの取引かもな?」
 「銃口が見えましたよ」と吉田君。
 
 「シカ打ちだ。ハンターだよ」
 「生きているシカを打つなんてで無理だよな。かわいそうで」
 
 と話しながら走っていると、二股にさしかかてしまいました。
 
 「どっちだ?ここで間違ったら、集合時間に間に合わない」。
 
 道路脇に掲げられた地図らしき看板を見てみたが、さっぱり分からない。
 
 「外をウロウロしていたら、シカと間違って打たれるんじゃないか」
 「それはないでしょう」
 「だって、近ごろのハンターの中にはウマとシカを間違えて打つやつだっているじゃないか」
 
 笹藪を歩いていたハンターが間違って打たれたという新聞記事を見たことがある。昔、標茶に行った時に流れ弾が車を貫通したという話も聞いたこともあるな。
 
 「あ、先ほどのハンターの車だ!吉田君、どっちか聞いて見ろ」
 
 思い過ごしでした。ハンターのおじさんたちは、とても親切で人柄の良さそうな人たちなのでした。
 
 ようやく山道を抜け舗装道路に出た時は、雪が積もっていました。
 かんの温泉の旧館前には野生のシカが1頭ウロウロ、さすが秘境です。このシカ君(オスかメスか分かりませんが)のおかげで、特集「源泉マニア御一行様」の扉が鄙び感たっぷりの写真となったのです。
 
 野生のシカの登場に、一同は大喜び。シカ君はもちろん、シカトです
 
 座談会中、宿から出たシカ肉の旨かったこと。これには一同感激しました。だって、分厚くスライスした肩ロースには脂身がほどよく付いていて、口に入れるとバランスよくとろけるんだもの。しかも、シカの鳴き声を聞きながら、いただく極上の生肉。
 
 「シカ肉って、こんなに旨かったの?」
 全員でお代わりを注文しました。
 
 「社長、いやあ、最高ですね」
 「いいでしょ、本当のシカ肉の味はこうなんですよ。」
 菅野社長は満面の笑みで説明してくれました。
 
 「解凍にかなり時間がかかるけど、いいんですか?」
 「待ちます、待ちます!」
 だが、2時間近くの待ちに、しびれを切らして誰かがつぶやいた。
 
 「解凍に時間がかかるんなら、さっきのシカでも……」
 
 外をのぞくと、シカ君は、どこともなく姿を消しておりました。
 
 (お)
 
 かんの温泉のシカ肉。入り口で撮影したシカとは関係ありません
 
 
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